日本薬理学雑誌
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ラットにおける実験的関節疼痛モデルとビアルロン酸ナトリウムの鎮痛作用
後藤 幸子宮崎 匡輔女屋 純一坂本 崇徳安 清親並木 脩
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1988 年 92 巻 1 号 p. 17-27

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抄録

ラットの膝関節腔内に種々の内因性発痛物質を投与することにより,関節疼痛モデルを作製し,Na-hyaluronate(SPH)の疼痛抑制作用について検討した.種々の発痛物質のうち,bradykinin(BK)とserotoninとでは投与量に依存した関節疼痛反応が明らかに認められたが,histamine,substance-P,acetylcholineでは顕著な疼痛反応は認められなかった.また,一般に病態関節では関節組織中のprosta-glandin量の増加や関節液中のhyaluronic acid(HA)の濃度及び分子量が低下していることが知られている.そこでBKによる疼痛モデルに対し,prostaglandin E2の添加あるいはhyaluronidase処理による関節液中のHAの低分子化が,疼痛反応に対してどのように影響を及ぼすかについて検討した.これらの処理によりBKの疼痛閾値は著しく低下し,病態関節では正常関節に比べより痛みを感じやすい状態にあることが示唆された.SPHはこれらのBKによる疼痛反応を明らかに抑制し,その抑制効果は,前処理時のSPHの投与量に応じて長時間持続することが認められた.また,その抑制効果の程度はSPHの滑膜組織における分布量と相関していた.またhyaluronidase処理関節にSPHを投与しても疼痛が抑制されたことから,関節液中のHA濃度を上昇させることによって,関節液の粘度を高めることができれば,HAの分子量は正常化しなくても疼痛を緩和させ得ることが示唆された.一方,同じ多糖体であり,SPHと同程度の粘度を示すmethylcelluloseや,polyanionicなムコ多糖体多硫酸エステル及びHAのオリゴ糖では鎮痛効果は認あられなかった,このことから効果の発現には高分子量HA特有の立体分子構造が大きく関与していることが考えられ,SPHが滑膜などの組織の痛覚受容体を被覆し,また内因性の発痛物質を捕捉することにより疼痛抑制作用を発現するものと考えられた.

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