日本薬理学雑誌
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総説
エンドセリン研究の新しい展開
―受容体拮抗薬の臨床応用への展望―
後藤 勝年宮内 卓
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2003 年 121 巻 2 号 p. 91-101

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抄録

エンドセリン(ET)は3種類のファミリーペプチド(ET-1,ET-2およびET-3)よりなり,2種類の受容体サブタイプ(ETAおよびETB)を刺激して様々な作用を発揮する.血管内皮細胞から産生されるのはET-1のみである.ET-1は強力な血管収縮作用と同時に,心血管系の様々な細胞に対して直接,または他の成長因子や活性物質と協調して間接的に増殖作用を示す.ET-1は細胞外マトリックスも含む様々な活性物質の産生や分泌も促す強い作用を発揮することも見出されている.これらのことから,ET-1は高血圧や肺高血圧,血管リモデリング(血管の狭窄や動脈硬化),急性·慢性腎不全,慢性心不全等の各種慢性循環器疾患と深いかかわりを持つことが示唆されてきた.ET-1が慢性循環器疾患の病因または悪化因子として働いているなら,その作用を遮断する薬物は治療薬となり得ることが予想され,ETの生合成阻害薬や受容体拮抗薬の開発に多くの注目が注がれてきた.20世紀終盤には,ペプチド性および経口投与可能な非ペプチド性のET受容体拮抗薬が数多く開発され,当初は薬理学的ツールとして内因性ETの生理的·病態生理的役割の解明に供され,幾多の成果を収めてきた.その後,各種の慢性循環器疾患の動物モデルを用い,予防や治療を目的とした様々なタイプの実験が行われ,ET受容体が著効を発揮することが次々と証明されてきた.上記の慢性循環器疾患の患者においても,急性または慢性投与による治験研究が積み重ねられ,極めて良好な治療効果のあることがかなりの疾患で示されてきている.そして2001年10月,bosentanが世界で最初に肺高血圧症の治療薬として,FDAより正式に認可され,上市された.本総説では,ET受容体拮抗薬の臨床応用に関する展望を探ってみる.

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© 2003 公益社団法人 日本薬理学会
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