日本薬理学雑誌
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特集:サルを用いた疾患病態解明および創薬研究の最前線
カニクイザルによる変形性膝関節症モデルの開発と薬理学的評価
小川 真弥夏目 貴弘髙松 宏幸
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2018 年 152 巻 3 号 p. 132-138

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抄録

変形性膝関節症(knee osteoarthritis:膝OA)は様々な要因により膝関節の軟骨が変性及び消失し,痛みを引き起こす病態である.患者数は増加の一途をたどっているが,発症の根本的な原因解明や手術以外の治療法は確立されていない.そのため様々な作用機序を有する化合物の臨床試験が実施されたが,臨床での有効性の問題あるいは副作用の問題から新規医薬品の創出には至っていない.これは,げっ歯類モデルでは臨床での有効性を予測することは困難であることを意味している.病態モデルは「ヒトの病態に類似している」ことが重要であり,非ヒト霊長類(non-human primate:NHP)は生物学的及び構造学的にヒトに類似している点で非常に有用である.そこで著者らはNHPを用いた膝OAモデルの作製を試みた.実験には8歳齢の雌性カニクイザル9頭を用い,右膝半月板摘出手術(medial meniscectomy:MMx)を行った.MMx処置後,運動負荷を実施することで膝関節の軟骨をすり減らし,疼痛症状を惹起した.疼痛の評価にはweight bearing test及びknee pressure testを用いた.十分な疼痛症状を示した状態で,ジクロフェナク,アプレピタント,デュロキセチン,モルヒネ,プレガバリンの5つの薬剤について薬効評価を実施した.その結果,ジクロフェナク,デュロキセチン及びモルヒネは有効性が認められ,アプレピタント及びプレガバリンは認められなかった.この結果は臨床での有効性の結果と一致しており,NHPモデルはより臨床予測性の高い病態モデルであると考えられた.

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