胸痛で救急搬送された83歳、男性。冠動脈造影より回旋枝#11の巨大冠動脈瘤由来と考えられる血栓により末梢塞栓像を認め、急性心筋梗塞(側壁)と診断し血栓吸引を施行した。後日、冠動脈瘤評価のため施行した心臓CTで、回旋枝 #11に約20mm径の冠動脈瘤と冠動脈起始部から末梢に至る左右冠動脈外膜周囲に数mmに肥厚した全周性の腫瘤様肉芽組織(CT値50~100HU)を認めた。CTでは腹腔動脈根部、腎動脈近位部周囲、左内頸動脈、両側総腸骨動脈、内腸骨動脈、大腿動脈周囲にも冠動脈と同様の肉芽組織を認めたが、胸腹部大動脈瘤は認めなかった。PETで前述の動脈に加え腎臓、両側顎下腺、脾臓に集積像を認めた。頭部MRIで下垂体茎部の腫大を認めた。また血清IgG:8194mg/dl、IgG4:2630mg/dlと異常高値と抗核抗体強陽性(1280倍)を認めた。腎生検の組織において高度の形質細胞浸潤(IgG4陽性)を認めた。
以上よりIgG4関連疾患と診断しステロイド療法開始した。ステロイド剤の反応は良好でIgGは正常化(1217mg/dl)、IgG4は著減(362mg/dl)した。2ヶ月後に前回CTでは認められなかった胸部大動脈瘤の破裂により死去された。
血管病変としてのIgG4関連硬化性疾患は、炎症性腹部大動脈瘤と後腹膜線維性増殖などが知られているが、両者を併せて慢性大動脈周囲炎(chronic periaortitis)とした概念も広がりつつある。本例は、IgG4関連硬化症疾患の表現形として、中型動脈である冠動脈周囲炎(coronary periarteritis)に加え、巨大冠動脈瘤を合併し心筋梗塞を発症した希な例であったので報告した。