日本歯周病学会会誌
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症例報告
マルチプルリスクファクターシンドロームを有する慢性歯周炎患者の一症例
下江 正幸岩本 義博新井 英雄西村 英紀高柴 正悟
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2007 年 49 巻 1 号 p. 61-70

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抄録

糖尿病・高血圧・高脂血症・肥満といったインスリン抵抗性を基盤に持つマルチプルリスクファクターシンドローム(MRFS)を有する患者は,心筋梗塞に代表される虚血性心疾患を高頻度に発症することが知られている。今回,歯周治療に伴い血糖コントロールは改善したものの,SPT中に心筋梗塞・脳梗塞を発症,さらに,心不全を合併したMRFSを基盤にもつ慢性歯周炎患者の治療経過から,歯周炎が全身に及ぼす影響について考察する。患者は,62歳・女性。全身疾患として,2型糖尿病・高脂血症・高血圧症・重度慢性歯周炎を有していた。初診時,ヘモグロビンA1c(HbA1c)値は8.1%と血糖コントロールは不良で,歯周病原性細菌に対する血清IgG抗体価は健常者の2SDを超えて高値を示していた。肥満度を示すBody Mass Index(BMI)は21.3 kg/m2であり,糖尿病性合併症は有していなかった。したがって,これらのことより本患者をインスリン抵抗性を背景に有している歯周炎患者と捉え,感染源を徹底的に除去することを目的に歯周治療を行った。長期的にみると,歯周治療に伴い歯周組織の臨床症状および,歯周病原性細菌に対する血清IgG抗体価は改善し,血糖コントロールの指標である HbA1c値は6%台後半を推移していた。しかしながら,本患者はSPT中に心筋梗塞を発症した。2型糖尿病患者では冠状動脈疾患の発症リスクは健常者の2-3倍と報告されている。本患者の場合,重度慢性歯周炎を含め高血圧症,高脂血症といった危険因子の蓄積が結果的に心筋梗塞の発症につながったと考えられる。MRFSを有する患者は,生活習慣病予防の一環として,より積極的に歯周疾患の予防,治療を行うべきであると考える。

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© 2007 特定非営利活動法人 日本歯周病学会
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