歯科基礎医学会雑誌
Print ISSN : 0385-0137
ラット臼歯の生理的遠心移動ならびに矯正学的近心移動にともなう歯根吸収の酵素組織化学・免疫組織化学による検討
柳下 寿郎佐藤 かおり割田 幸恵安藤 文人青葉 孝昭
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2000 年 42 巻 4 号 p. 283-292

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抄録

本研究では, 酵素組織化学と免疫組織化学による二重染色法を併用して, ラット上顎第1臼歯における生理的な遠心移動と矯正学的な近心移動に起因する歯根吸収の発生状況, 組織形態学的な特徴吸収活性について検討した。矯正移動を目的とした実験群動物には, クローズドコイルスプリングを用いて近心方向への初期荷重40gを設置した。スプリング装着後, 最長10日間にわたる観察期間を設けた。今回の組織観察に際して, 脱灰・パラフィン包埋薄切標本上でのアルカリフォスファターゼ (ALP) 活性の酵素組織化学的検出法を改良することにより, 酒石酸抵抗性酸性フォスファターゼ (TRAP) 活性との同時観察が容易となった。また, 歯根近傍での破歯細胞の分化・活性化を追跡する目的で, TRAP活性と抗ED1抗体による免疫染色を施した。生理的な遠心移動による歯根吸収の発生状況を調べる目的では, 同週齢の無処置群動物, あるいは不活性状態のスプリングを装着した反対側臼歯を観察対象とした。組織観察の結果から, (a) 生理的な遠心移動に伴い, ラット臼歯歯根の遠心側, 主に歯頸部寄り1/3の領域に多彩な形状をもつ吸収窩が発生しており, (b) 近心方向への矯正力の負荷により, 歯根位置は歯槽窩内を速やかに移動し, 歯根周囲でのTRAP・ALP酵素活性の組織内分極に大きな変動をもたらしたが, (c) 近心側歯根表面への破歯細胞の付着と歯根吸収窩の成立にいたるまでに, 矯正力負荷後2日ないし4日の準備期間を要することが判明した。なお, 活性化された破歯細胞は異なる表現型 (細胞径, 細胞核数ED1抗体への反応性) を示す細胞集団であることと, 歯根吸収活性は矯正力負荷後の牽引側でも継続しうることが注目された。

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