老年者の末梢血液像の加齢に伴う変化を, 60歳以上の健康老年者を対象に, 50歳未満の青壮年者を対照として比較検討し, そのうちとくに老化に伴う貧血に関連して, 赤血球産生の低下を造血幹細胞の動態より検討し, 次の如き成績をえた.
1. 赤血球系諸値のうち, 血色素量, 赤血球数, ヘマトクリット値などは, いずれも60歳代で, 青壮年対照群に比して低値を示し, 以後70歳代, 80歳代と加齢とともに漸減傾向をとった. これら諸値は, いずれも男が女より一般に高値であったが. この性差は加齢とともに漸次縮少する傾向をとった. MCVは老年者群で高値であったが, 加齢とともに増加する傾向を示し, 一方, MCHはとくに一定の変化をみとめず, MCHCは対照に比して軽度減少する傾向をみた. 血小板数にはとくに明らかな変化はみられなかったが, 白血球数は加齢とともに男女とも漸減する傾向を示した. 末梢血中の網赤血球数は70歳代以降では, その絶対数は減少する傾向をみとめ, このことは赤血球の有効造血が低下することを示した. 赤血球の食塩水に対する滲透圧抵抗は老年者でとくに低下する点はみられなかった.
2. 骨髄の赤血球系造血幹細胞 (erythropoietin responsive cell: ERC) は70歳代および80歳代で, 青壮年者対照群に比して明らかに減少した. このERCは骨髄中赤芽球比率とは相関しなかったが, 末梢血中網赤血球数とは有意に正の相関を示した.
以上の諸成績より, 老年者では, 青壮年者に比して, とくに赤血球系諸値の減少が明らかで, その発現機序に関連する一要因として赤血球産生の低下が考えられた. このことは赤血球系幹細胞が加齢によって減少したことによると推定されたが, かくの如き幹細胞減少が起った原因は明らかでなかった.