日本老年医学会雑誌
Print ISSN : 0300-9173
超音波変位計による総頚動脈管軸方向 stiffness parameter β分布の計測
健常群, 脳梗塞群の対比
川崎 健竹内 光吉長谷川 元治八木 晋一中山 淑柏倉 義弘荒井 親雄高山 吉隆岸 良典比嘉 康宏
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1982 年 19 巻 6 号 p. 588-595

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抄録

脳動脈硬化の早期発見を目的とし, 脳動脈硬化に先行し動脈硬化性病変が出現する総頚動脈の管軸方向弾性特性の分布を計測した. 対象は50代, 60代の健常群30例, 脳梗塞群40例, 計70例である. 計測部位は総頚動脈鎖骨直上部より頚動脈洞までを4等分し, 頚動脈洞(E部)および中枢側D, C, B部の計4点である. 計測パラメータは stiffness parameter βである. βは応力-歪構成法則を指数函数であらわした場合の指数係数で数値の大なる程血管が変形しにくい, すなわち機能的に硬いことを意味する. 臨床的にはβは次式よりえられる. β=(lnPs/Pd)・Dd/(Ds-Dd)(Ps: 最大血圧, Pd: 最小血圧, Ds, Dd各々の口径). 血管径の計測装置は超音波変位計を用いた. 本装置は超音波エコーの位相を追跡するシステムを採用し変位量に対し高い計測精度を有している. これよりえられた口径変位波形から最小血圧時口径Dd, 最大血圧時口径Ds, 変位振幅ΔDをもとめた. また血圧は圧力トランスジューサーを用いた上腕動脈圧の間接的測定法により求めた.
総頚動脈管軸方向口径分布をみると, 各群各年代ともB, C, D部に比し頚動脈洞E部の口径が約20%大であった. 又脳梗塞群は健常群に比べ各部位の口径とも大であった. 口径変位は各部位間に明らかな差はみとめないが, 脳梗塞群は健常群に比べ小であった. 一方管軸方向のβ分布をみると, 健常群では50代, 60代とも総頚動脈の各部位(B, C, D部)のβはほぼ一定で, 頚動脈洞部は他部位に比し17~18%大である. 脳梗塞群ではこの傾向はさらに増強し, 頚動脈洞は総頚動脈に比し33~37%大となる. 又, 脳梗塞群βは各年代各部位とも健常群に比し明らかに高値を示し有意差をみとめるが特に頚動脈洞部では45~63%大であった.
以上超音波変位計により非観血的に計測された総頚動脈管軸方向β分布特性から生理的脈動流下での力学的な機能特性を評価し, 脳動脈硬化を推定する本法は, 間接的脳動脈硬化診断法として有効である.

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