1993 年 30 巻 5 号 p. 393-396
くも膜下出血後の続発性 normal pressure hydrocephalus (NPH) に起立性低血圧を合併した症例を経験したので報告した. 症例は67歳男性でくも膜下出血の6カ月後, すでに ventriculoperitoneal shunt (V-Pシャント) を設置した状態で入院した. シャントの機能障害によりNPHの三主徴である痴呆・歩行障害・尿失禁が出現・増強し同時に起立性低血圧も著明となったが, V-Pシャント再建術後は三主徴とともに起立性低血圧も改善した. 起立性低血圧は種々の原因で生ずるがNPHに併発したとの報告は本例が初めてである. 本症状はNPHの三主徴の臨床経過とほぼ同様に推移したことから, その発現機序としては三主徴の発現機序に類似し間脳・視床下部, 辺縁系, 大脳皮質といった上位の血圧調整機構障害がNPHによる前頭葉の圧迫, 第三脳室壁への圧排により生じた可能性が示唆された.