日本老年医学会雑誌
Print ISSN : 0300-9173
高齢者の貧血-原因, 鑑別法, 対策
高崎 優鶴見 信男近喰 桜桜井 博文加納 広子柳川 清尊勝沼 英宇
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1997 年 34 巻 3 号 p. 171-179

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抄録

健康老年者であっても加齢に伴って軽度の貧血が出現してくる事はよく知られている. 当大学病院で1988年より8年間の人間ドッグ受診者の中から収集した65歳以上の健常老人3,583例 (男性1,590例, 女性1,993例) の末梢血液データを5歳間隔の年齢層別で集計し, その平均値の推移をみると, 男女ともに, 赤血球数, 血色素量及びヘマトクリット値は年代が進むにつれて, 軽度の低下が観察された. この主な原因は造血幹細胞の減少と造血微小環境の加齢による退行性変化の進行と関連していると考えられる. 高齢者の脊椎骨の骨髄組織標本にて造血髄内の動脈を観察したところ, 内膜の肥厚よりも中膜の肥大と外膜の線維性肥厚を特徴とした血管硬化性所見を認め, 静脈洞は減少し, それに変わって脂肪組織面積の増加が観察された. 造血野と脂肪面積の比率及び細胞密度は共に加齢に伴って減少傾向を示した.
又, 健康高齢者32例のEPO含有培養液にて14日間培養後のBFU-E形成の数は, 高齢者28±19個, 若年者54±30個で, 高齢者が有意に低下していた (p<0.005). 更に健康高齢者8例のCFU-Eのコロニー形成能は, 高齢者は170±67個, 若年者は276±54個と高齢者に明らかな低下を認めた. 一方, 鉄回転は高齢者では血漿鉄消失速度 (PIDT/2) は60~80分 (平均71.9分) と若年者と差は無かったが, 赤血球鉄利用率 (%RCU) は67.6~84.9% (平均79.7%) と若年に比し軽度の鉄利用の低下を認めた.
老年者の貧血診断基準値をHb11.0g/dl未満とすると, 本学附属病院老年科外来患者の約13%に貧血が見られた. その大部分は基礎疾患の本来の病態に由来した二次性貧血である. しかし老年者に発生するこれら貧血は, 加齢に伴う各種臓器の機能低下, 予備能低下などによる修飾を受けやすく, 複雑な病因, 病態を呈するのが特徴であり, 診断が困難な場合が少なくない. これらの点に留意して, 老年者にしばしば認められる原発性貧血と二次性貧血についてその診断のポイントと対策について概説する.

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