日本老年医学会雑誌
Print ISSN : 0300-9173
原著
介護老人保健施設における尿路感染症とESBL産生(多剤耐性)大腸菌:患者背景の解析と治療効果についての経験
山本 章
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2011 年 48 巻 5 号 p. 530-538

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抄録

目的:多くの病院,そして当施設でもextended spectrum β-lactamase(ESBL)産生大腸菌の急速な増加が見られることに鑑み,施設入所高齢者における糞便中ESBL産生大腸菌保菌者の頻度を調査し,尿路感染症への関連性を検索した.方法:2009年8月から2010年7月までの12カ月間に尿路感染を起こした入所者について尿中の病原細菌を検索した.また,大阪大学保健学科生体情報科学研究室において,入所者ほぼ全員について糞便中のESBL産生菌の表現型スクリーニングと遺伝子解析を行った.結果:尿路感染症を起こした入所高齢者の尿中から検出された細菌56株中24株は大腸菌で,うち14株はESBL産生菌であった.これらの菌はすべてレボフロキサシン(LVFX)にも耐性があった.糞便検査では検査を受けた入所者の144人中31人(21.5%)にESBL産生大腸菌が検出された.糞便検査陽性者のうち上記12カ月間に尿路感染症を起こした症例は,男性では1名のみで尿中にESBL産生菌は検出されず,これに対して女性は9名,そのうち8名が尿中ESBL産生大腸菌陽性であった.糞便中ESBL産生菌の存在は,入所前の感染症・化膿性疾患罹患歴に関連していた.尿中のESBL産生大腸菌は感受性テストの結果から適切と判断される抗菌薬(主にホスフォマイシンとミノマイシンの併用)の使用によって消去することが出来たが,症例によっては他の糞便由来病原細菌による菌交替が起こり,それに合わせた別種の抗菌薬の使用が必要であった.結論:糞便中に高頻度にESBL産生大腸菌が検出され,特に女性高齢者では,これが尿路感染症の病原細菌となって治療困難の原因となっていた.特に糞便中ESBL陽性者に対するLVFXの使用は慎重を要する.

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