日本耳鼻咽喉科学会会報
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高脂質血症ハムスター内耳の電子顕微鏡的観察
日高 利美
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1997 年 100 巻 9 号 p. 900-908

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抄録

高脂質血症と感音難聴との合併が注目されモルモットで食餌性高脂血症状態での蝸牛の観察が行われているが, いずれも短期間の高脂血症状態における内耳の観察であり, 長期間の高脂質血症作製は困難とされている. ハムスターは血清脂質レベル, 胆汁酸組成や肝コレステロール生合成能がヒトに類似しており, 動脈硬化のモデルや肝臓における負荷実験によく用いられている. またハムスターを使った薬物負荷の実験では抵抗性のため大量投与や長期観察に適していると考えられ, ハムスターは長期間の高脂質血症状態下の内耳の観察が可能と推定し, 実験的に高脂質血症を作製し血清学的変化と聴力の変動と共に内耳の形態学的観察を電顕的に観察し, 高脂質血症と難聴の関係について検討を行った. 聴性脳幹反応 (ABR) で可聴域値を測定後, ハムスター用飼料にコレステロール3%, 牛脂肪15%を配合し高脂質飼料とし, 生後2カ月ハムスターを30日群, 60日群, 90日群, 120日群, 150日以上群に分け, 生後6カ月ハムスター30日群とともに自由に摂取させ, 各群の摂取終了時にABRで可聴域値を測定後, 麻酔下に採血し血清分離を行った後, 側頭骨を摘出し走査電顕, 透過電顕にてコルチ器と血管条の観察を行った. 90日群1匹と150日以上群2匹のみに死亡を認め, いずれの群も著明な高コレステロール血症を示し, ABRでは軽度の聴力障害を認めた. 内耳の形態的観察では, 血管条表面に突起や突出, 破裂像や, 毛細血管周囲の変性, 血管条辺縁細胞, 中間細胞の空胞変性が認められ, コルチ器では外柱細胞よりライソゾーム様構造物を含む突出物が認められた. ハムスターは高脂質血症状態下でも比較的長期に観察可能であり, 内耳の病態についての観察モデルに適している. ABRでの軽度難聴や観察された内耳の形態的変化は, 高脂質血症状態下における内耳の機能障害の発生に関与するものと推定される.

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