第四紀研究
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縄文時代への移行期における陸上生態系
辻 誠一郎
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1997 年 36 巻 5 号 p. 309-318

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抄録

縄文文化の成立と展開が生態系の変化とどのようにかかわったかを明らかにするために,日本列島における晩氷期から後氷期にかけての植生の急変を見直した.関東から西日本ではおもに4回の段階的な変化を認め,照葉樹林期(約8,000年前以降)までに,温帯性針葉樹林とコナラ-クマシデ属型落葉広葉樹林(約13,000-12,000~10,000年前),コナラ-クマシデ属型落葉広葉樹林(約10,000~9,000年前),エノキ-ケヤキ型落葉広葉樹林(約9,000~8,000年前)が優占する3つの時期を認めた.東北・北海道ではおもに3回の変化を認め,ブナ属・コナラ亜属林かコナラ亜属林期(約8,000年前以降)までに,温帯・亜寒帯性針葉樹(約13,000-120,000~10,000年前),カバノキ属・ハンノキ属(約10,000~8,000年前)の優占する時期を認めた.約10,000年前の変化はもっとも大きな変化で,縄文文化の諸要素が出揃う縄文時代の始まりにほぼ一致する.縄文文化が落葉広葉樹林への変化によって育まれたとすると,コナラ-クマシデ属型落葉広葉樹林がいち早く広域に拡大した西南日本が縄文文化の要素を育んだ一地域と考えられ,縄文文化が東進した可能性が指摘された.

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